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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)189号 判決

原告

羽根三郎

右訴訟代理人弁理士

松田喬

被告

特許庁長官

佐橋滋

右指定代理人通商産業技官

渡辺勤

同 通商産業事務官

網野誠

江口俊夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

原告代理人は「昭和三四年抗告審判第一一四一号に事件ついて特許庁が昭和三六年一一月六日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、請求の原因

原告代理人は請求の原因として次のように述べた。

一、原告は昭和三二年二月一五日特許庁に対し「プラスチツク製注射器の製造法」について特許出願(昭和三二年特許願第三四八〇号)し、昭和三四年三月二八日付で拒絶査定を受けたのでこれを不服とし、同年五月二日抗告審判を請求(昭和三四年抗告審判第一一四一号)したところ、昭和三六年一一月六日抗告審判の請求は成り立たない旨の審決がなされ、同審決書の謄本は同月一一日原告に送達された。

二、原告の出願にかかる本件発明(以下本願発明という)の特許請求の範囲は「本文に詳記する如くプラスチツクを型押して容筒を造り、其の一端に注射器を嵌着するプラスチツク製のT型筒先の平板部側面を、他端にプラスチツク製平板状の鍔の下面を接着剤に依り或はウエルダー熔接等に依り各定着し、プラスチツク製ピストンの凹陥部に合成ゴムのピストンリングを嵌合し、此のピストンをプラスチツク製ピストンロツドに接着剤に依り或はウエルダー熔接等に依り各接着する事を特徴とするプラスチツク製注射器の製造法」にある。

三、本件判決の理由の要旨は

「原審引用実用新案公報には注射器を成型する製造法についても容易に実施し得る程度に記載されたものと認めることができる」と前言して「プラスチツク製品を造るに当つて、製品を各パーツに分けてそれらを各単独に型押して造り、これら相互を接着剤、あるいはウエルダー熔接などによつて定着して組立成形することは、普通に慣用されているところであり、また本件特許願における作用、効果には、原審引用実用新案公報についても言えるような普通に知られている一般的なプラスチツク成型品の製法上の利点ないしは性質が記載されているだけで、各パーツに分けて成型する点については何等の記載もみられないところから結局原審実用新案公報における製造法に代えて本件特許願の製造法を採用することは当業者が従来慣用のプラスチツク成型技術にもとづいて容易に考えられる程度のものと認められる。仍つて本件特許願は旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条の発明を構成しない。」というにある。

四、しかしながら、審決は次の点について判断を誤つた違法があり取り消されるべきである。

(一)  本願発明の出願前は、注射器は一般に硝子製であり、しかもその実際製造技術としては、容筒(シリンダー)とピストンロツドとの摺合せが一本一本異り、これは極度に気密性を要求されるから、容筒は実際には一本々々ピストンロツドに適合させて機械的に削磨し、これとピストンロツドとの摺合せの調子を見て完成品とするものである。注射器の製造にはこの容筒とピストンロツドとの嵌合具合ということが極めて重要性を有する故に、原審引用実用新案公報において、単に「合成樹脂例えば尿素樹脂を以て造り」とか、「環状溝6内に喞筒1の内径よりも僅かに大きい弾性物質性の環体7例えばゴム製にして且喞筒1及び喞子2と色を異にするものを嵌合するものであるが」等の記載があり、かつその全文と図面とに徴するも、果して合成樹脂製にした場合その喞筒1と喞子2とが摺り合うかどうか、また環体7はその説明と図面とに示す摺合せでは変位することはないか、それにより薬液量に変化を来たし、分量に誤認を生ぜしめるおそれはないか、また単に弾性物質と称するもその例示しているゴムでは薬液により腐触され人体に悪影響はないか、その他喞筒1等においては如何様にして成型可能か等の点につき皆目不明であつて、これに対し合成樹脂を以て成型する製造についても容易に実施し得る程度に記載されていると認定した審決は明らかに事実の判断を誤つているものである。

(二)  審決は前記認定を前提として、プラスチツク製品を造るに際し、製品を各パーツに分けてそれらを各単独に型押して造り、これら相互を接着剤あるいはウエルダー熔接などによつて定着して組立成形することは普通に慣用されているところであると認定した。しかし特定の物品製造に際し、特定形状の部分品を製造し、これらを細立てることは発明を構成するもので、プラスチツクの慣用手段が存することは本願の特許適格性とは無関係である。一般的観念として製造し得ても、特定物品としては特段の発明的工夫を行なわなければ製造不可能なものが存する。プラスチツク製注射器の製造もその後者に該当するものである。また被告は「硝子製の注射器でさえも、各パーツに分別して成型することは従来慣用のものである。この点から考えても本件発明は旧特許法第一条の発明を構成しないものである」と主張しているが、硝子製注射器はシリンダーとピストンロツドに分別して製造するけれども、その他には分別しない。この手段ではプラスチツク製注射器の製造は不可能である。審決は、本願発明プラスチツクで各部分を型押して造ると認定しているが、これは誤りであつて、容筒は型押して造るが他はこれに限局されない。本願発明においては、T型筒先を分別してあるから、その平板部側面は圧力に応じ長短適宜のものを採用して容筒に確実に固定し得るし、またプラスチツク製平板状の鍔を分別したことは、これに接する容筒の開口部を明細書添付図面第一図図示の様に拡開して鍔を確固と定着し得て、使用に際しこれを手掛けに用い得る。これら筒先および鍔を容筒と共に一体に成型したとすれば、容液内の薬液の圧力および施術時の手掛の押圧力に耐えることは不可能ないし困難であり、これに耐えるように製作するとすれば、容筒の厚み等を不必要に増大しなければならない故に、資材の浪費は勿論市販する商品となり得ない。審決はプラスチツク成型の基本的理論にのみとらわれ、合成樹脂による注射器製造の実際を看過したものである。しかして、本願発明の方法によれば、従来の技術手段では直ちに製造できなかつたプラスチツク製注射器が現実に確実筒単工業的に製造できる点において極めて進歩性あり、本願発明は旧特許法第一条所定の工業的発明を構成するのにかかわらず、その特許性を否定した審決は判断を誤つた違法がある。

(三)  本願発明の明細書に作用、効果の記載を湊合的に説述した所以は、その出願前にプラスチツク製注射器および製造方法が全く存在しなかつたところに依拠し、すなわち一般に発明の作用、効果の説明は、具体的記載手段として種々の表現方法が存在しており、このうち製造方法の発明において従来特定の材料により特定の物品を製造する技術手段が全然なかつた様な場合、結果たる特定製品が得られることをその発明の作用、効果とするも、これはすなわちその発明の作用、効果を直接に説明しているものであつて、そのような説明方法を採用したからといつて、本願発明の内容が特定形状の各パーツに分別したところを発明要旨としていないとはいえない、しかるに、各パーツに分別した作用、効果の記載がないところからみて本件特許願における格別の作用、効果を認めることができないと判断した審決は失当である。

第三、被告の答弁

被告代理人は主文同旨の判決を求め、前記請求原因に対し次のように述べた。

一、請求原因一、二、三項は認めるが、四項は争う。

(一)  原告も認めているように、引用公報における実用新案の性質、作用および効果の要領の項には、「喞筒1及び喞子2は公知の硝子の外、透明又は半透明の合成樹脂、特に熱硬化性合成樹脂例えば尿素樹脂等を以て作り」なる記載があるところからみれば、明らかに注射器の喞筒と喞子とを合成樹脂をもつて成型する製造についても容易に実施し得る程度に記載されているものと認めるのが妥当であつて、この点審決の認定には何等の違法もない。原告のいう喞筒と喞子との摺合せ、環体の性質等はすべて本件の製造法には直接関係のない現場技術の問題であつて、これらのことが前記引用公報に記載されていないからといつて、合成樹脂で注射器を成型する製造が前記引用公報に何等記載されていないとみるのは当らない。

(二)  本願発明の明細書の記載には、各パーツに分けて成型することについて何等触れるところがなく、また抗告審判請求書の請求の趣旨ならびにその後の訂正書にも何等述ぶるところがない。してみれば、原告主張のような特定の物品製造に際し、特定形状の部分品を製造し、これらを組立てる点に特別の意義を見出すことができず、審決のように認定しても何等違法性はない。また審決は、原告主張のように、本件発明の要旨とするところが、特定形状の各パーツに分別した点を発明要旨とするものではない、とはいささかも認定していない。原審において原告は、本願発明のものが一般的なプラスチツク成型品の成法上の利点ないしは性質だけを主張していて、特定形状の各パーツに分別した点の作用効果を何等主張していないので、審決の認定に違法性はない。

なお、念のため述べるが、硝子製の注射器でさえも、各パーツに分別して成型することは従来慣用のものであるので、この点から考えても本願発明は旧特許法第一条の発明を構成しないものである。

(三)  原告は本訴において、本願発明のT型筒先および平板状鍔を分別したことの作用効果について主張しているが、原審における明細書の記載は余りにも抽象的であつて、このような作用効果が内在していると認められるに足る記載が何等見出せないところからみれば、そのような作用効果が本願発明においてすでに内在しているとみるのは妥当ではない。旧特許法施行規則第三八条の規定の趣旨に照らし、原告はその要旨とする技術的効果を明確に記載して特許請求の範囲の記載事項の意義を明らかにしなければならないのに、原告が原審においてそれを怠り、本訴において始めて主張することは、条理上これを容認できないし、審決が本願発明の意義を判断するに当つて、明細書の記載と抗告審判請求書の主張をもとにして判断し、審決当時において何等主張されていなかつた、ないしは原告において全く意識していなかつた前記の点を審理しなかつたとしても何等違法はない。

(四)  仮りに前記作用効果が本願発明においてすでに内在しているとしても、次のような理由によつて本願発明は特許法第一条の発明を構成しないものである。

すなわち、圧力のかかる部分を肉厚なものとし、圧力のかからぬ部分はこれを薄肉のものとすることは、工作上普通に慣用されているところであり、筒先および鍔を容筒と共に一体に成型する場合においても、型を適当に設計すれば筒先と鍔に比べて、容筒の厚みを不必要に増大せしめることなく適当な厚みのものに成型でき、また平板状の鍔は何故拡開して容筒の開口部に確固と定着できるかの理由が明らかにされていないので、本願発明のものが格段の作用効果を奏するものとは認められず、結局容筒と筒先および鍔を分別して成型するところに、原告主張のような特段の発明工夫を出すことができない。

第四、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因一、二、三項は当事者間に争のないところである。

二、右当事者間に争いのない事実と、その成立に争いのない甲第一号証の一(本件特許願)、二(訂正明細書)とを総合すると本願発明明細書中の「特許請求の範囲」には、「プラスチツクを型押して容筒を造り、其の一端に注射針を嵌着するプラスチツク製のT型筒先の平板部側面を他端にプラスチツク製板状の鍔の下面を接着剤に依り或はウエルダー熔接等に依り各定着し、プラスチツク製ピストンの凹陥部に合成ゴムのピストンリングを嵌合し、此のピストンをプラスチツク製ピストンロツドに接着剤に依り或はウエルダー熔接等に依り各接着することを特徴とするプラスチツク製注射器の製造法」と記載されたところ、同明細書中「発明の詳細なる説明」の項には「本発明においてはピストンリングを除く外全体をプラスチツクを型押して製造するから」と記載されておるから、本発明においては容筒(1)ばかりでなく、他の部分すなわちT型筒先(2)平板状の鍔(3)もプラスチツクを型押して製造されるものと解すべきである。したがつて本願発明の要旨は、「ピストンリングを除く各部分をプラスチツクで型押して造り、容筒の一端に注射針を嵌着するプラスチツク製のT型筒先の平板部側面を、他端にプラスチツク製平板状の鍔の下面を接着剤によりあるいはウエルダー熔接などにより各定着し、プラスチツク製ピストンの凹陥部に合成ゴムのピストンリングを嵌合し、このピストンをプラスチツク製ピストンロツドに接着剤によりあるいはウエルダー熔接などにより各接着することを特徴とするプラスチツク製注射器の製造法」にあり、その作用および効果としては、「この注射器を構成する部分のうちピストンリングを除いたすべてのものはプラスチツクを型押して製造するから製造が容易であり、大量生産に適するから価格も低廉となり、またプラスチツク製であるから液体および気体による加熱消毒が可能な注射器を得られる効果がある。」とするものと解せられる。

二、一方成立に争いのない甲第二号証の二によると、審決が引用した実用新案出願公告昭和三一〜一九四九六(以下引用例という)には、次に述べるような注射器の構造と作用効果、すなわち、「喞筒1(本願の容筒に相当する)及び喞子2(本願のピストンに相当する)は公知の硝子、透明又は半透明の合成樹脂特に熱硬化性合成樹脂例えば尿素樹脂を以て作り、喞筒の先端には大小の注射針の針基を嵌合すべきテーパー状突体3、4(本願の筒先に相当する)を形成し、これに連孔5を穿ち、喞子2の外径は喞筒の内径に対し僅少の間隙があるように形成すると共に、その先端部近くに環状溝6(本願の凹陥部に相当する)を穿ち、該構内に喞筒1の内径より僅かに大きい弾性物質例えばゴム製の環体7(本願のピストンリングに相当する)を嵌合する。そうして、該環体7は喞筒1の内径より僅かに大きいので、これを喞筒1内に嵌挿するのを容易にするため喞筒1は少しく拡開するように形成されている。従つて、従来の様に喞筒1と喞子2との摺合せを特に厳重にすることなく気密を保持することができる。喞子2には空室14を設け、その口部には雌螺子13を設け、押圧部10を有する体蓋11の雄螺子12と螺合するようにし、空室内に注射消毒用脱脂綿又は蒸溜水を入れることができる。」旨の記載があり、なお説明の記載はないが、第2図の喞筒の右端縁部は第1図からみて鍔と解される。

三、(二) 原告は引用例に合成樹脂を以て注射器を成型する製造方法が容易に実施し得る程度に記載されているとの審決の認定は誤りであると主張する。

なるほど前記甲第二号証の二によると、引用例にはその注射器がどのようにして作られるかについて特に記載がないことが認められるのに、成立に争いのない甲第六号証によると、審決は引用例の注射器の喞筒、喞子は熱硬化性の合成樹脂で一体に形成するものであると認めていることが明らかであるが、前記甲第二号証の二の第2図、第3図、第4図が喞筒および喞子の縦断面を示しており、斜線の部分がその断面をあらわしており、これによると、喞筒、喞子はいずれも同一材料で形成されていることは明らかであり、また説明書中に喞筒、喞子は合成樹脂で製作する旨の記載があることおよびこの出願当時の合成樹脂製品の製造技術としてこのような管状物を成型することができるということを併せ考えると、審決が引用例のものは合成樹脂製の注射器が一体的に形成するものであると認めたことは当然のことであり、なお証人(省略)の証言によつても、プラスチツク注射器を一体的に製造することは不可能でないことが窺われるから当業者の技術常識をもつてすれば、たとえ原告のいう喞筒と喞子との摺合せ、環体の性質等についての記載がなくても、引用例にはプラスチツク製の注射器の製造方法が容易に実施し得る程度に記載されているというべきであり、右認定を動かすに足る証拠はないから、審決の認定に誤りはなく、原告の右主張は失当である。

(二) そこで、本願の発明(以下前者という)と前記引用刊行物記載のもの(以下後者という)とを比べてみると、前者のものが筒先部分をT型とし、これと平板状の鍔とを容筒とは別体に作つてこれらを接着剤あるいはウエルダー熔接などにより定着し、ピストンをもピストンロツドとは別体に作つてこれらを互に接着剤あるいはウエルダー熔接などによつて定着するものであるのに対し、後者のものが筒先と鍔ならびに容筒を一体的に形成し、かつピストンをもピストンロツドと一体的に形成するものである点、および前者のものがピストンリングを除く外全体をそれぞれ型押して造るものであるのに対し、後者のものにはこの記載がない点で両者相違する他は、互に一致しているものと認められる。ところでプラスチツク製品を造るに当つて、製品を各パーツに分けてそれらを各単独に型押して造り、これら相互と接着剤あるいはウエルダー熔接などによつて定着して組立成形することが普通に慣用されていることは、その成立に争いのない乙第三ないし第六号証により明らかである。

原告は、物品を各パーツ(部分)に分割して成型し、これを組立てるという技術手段は一般的には従来慣用されているとしても、特定の物品製造するのに特定の部品を製造しこれを組立てることは発明を構成すると主張する。

しかしながら、前記甲第一号証の一、二によると、本願発明の作用効果としては、(1)硝子製の場合に比し大量生産に適すること、(2)液体および気体に依る加熱消毒が可能なことの記載があるばかりで、各パーツに分けて成型し、これを組立てることの作用、効果についてはなんらの記載がない。しかもプラスチツク製注射器を部品に分割して作り、これを接着して組立て成型する技術自体なんら新規なものでないことは前記認定のとおおりであるから、この点に発明の存在は認められない。なお(1)前記の点は、部品がプラスチツク製であるがための効果であり、(2)の点は、硝子製でも熔着した後熱処理すれば煮沸にも堪えられると考えられるから、(1)、(2)の点いずれも本願発明の格別の効果とは認められない。(中略)その他右認定を動かすに足る証拠はない。

(三) 次に、原告は本願発明において容筒と筒先および鍔とを分別して成型することの効果について主張しているが、成立に争いのない甲第一号証の一、二、第四号証、第五証によると、原告が本願の出願当初から審決がなされるに至るまでの間に特許庁に差し出した書面のいずれをみても、本願発明によれば、注射器として使用する際筒先部と鍔部にかかる押圧力に適応した強さのものを作り得る効果がある旨の記載も、またこのような作用効果が内在していると認めるに足る記載も見出すことができない。明細書に記載された効果の補充ならば格別、これは別異の効果の主張であるから、本願出願当初においてこのようなことが認識されていたか甚だ疑わしく、審決がこの点について審理しなかつたとしてもなんら違法ではない。また、これを審査、審判の段階においていささかも述べることなく、本訴において始めて主張することは、本願の発明の要旨を認定するため重要な資料となる作用効果を変更することとなり、ひいては要旨認定の判断に変化をもたらすおそれもあるから、許されないものといわなければならない。

仮りにその主張が許されるとしても、圧力のかかる部分を肉厚なものとし、圧力のかからぬ部分はこれを薄肉のものとすることは、工作上普通に慣用されているところであり、筒先および鍔を容筒と共に一体に成型する場合においても、型を適当に設計すれば、筒先と鍔に比べて容筒の厚みを不必要に増大させることなく、適当な厚みに成型できるので、合成樹脂で一体に作られたものに比べて本願発明のものが格段の作用効果を奏するものとは認められないから、この効果の存在によつて本願が発明を構成するものであるということはできない。

四、以上説示したとおり原告の主張はいずれも採用し難く、本願は引用刊行物記載のものから容易に推考できる程度のものと認められるので、旧特許法第一条の発明を構成しないから、同法条の特許要件を具備しないものというべく、これと同趣旨の審決は相当であつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

よつて原告の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事原増司 判事福島逸雄 荒木秀一)

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